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Selfishly

Selfishly

可愛いペット act3

 

《注!!》 項目番号はアップした時のページ数の都合で
       増えて変わっている時があります。
       項目番号が飛んでいても、話の数には
       変わりはありませんので。


~可愛いペット~ P、9「show up!」

平和この上ないリゼンブールでは、人口が変動するのは、
村民に慶事・凶事がある時くらいで、家畜は数にはもちろん入らないから、
非常に稀で、滅多に変わる事がないと言う事だ。
唯、そんな村でも、祭りの時には、やや人手が賑わう日もあるが、
特に由緒ある祭りも、伝統ある催しもないので、
せいぜいが、近隣から付き合い程度に、やってくる、
言わば、知れてる変動だ。
が、そんな小さな祭りであっても、村人達にとっては、
年に数回の楽しみで、特に子供達にとっては、
待ち遠しい日ではある。

「エドワード、アルフォンス、皆さんにご迷惑を
 かけないようにね」
 
大きく手を振って、声を届けてくれる母に、
二人と1匹は、元気よく手と尾を振って答える。
祭り場までは、決して近くはないのだが、歩く次には馬車しかないようなここでは、
都会の者ならうんざりするような距離も、さして気にせず歩いていく。

「おい、アル。 ウィンリーは、どうしたんだよ?
 今日は祭りに行かないのか?」

そんな兄の言葉に、アルフォンスは、大きくため息を吐き出す。

「多分、兄さんだから、知らないとは思っていたけど、
 ウィンリー、今年の祭りの「プリンセス達」に選ばれてたじゃないか、
 だから、当然、もう会場に行ってるよ」

「そうだったっけ? じゃあ、あの花とか、菓子とか投げてくれるやつ?」

「そうだよ。 ウィンリーって、村じゃ評判の美少女なんだよ。
 兄さんが、うかうかしてたら、他の人にさらわれちゃうんだから」

そんなませた言葉にも、言ったほうが馬鹿を見るような
答えが返ってくる。

「ふ~ん、でも近所のよしみで、俺らに投げてくれるんじゃない?」

「兄さんって・・・、いやいいよ。
 難しいこと言った、僕が悪かったんだ」

ガクリと肩を落とす弟に、エドワードは不可解な表情をし、
ロイは、ご機嫌に尻尾を振る。

そう、エドワードは、とことん色恋には鈍い。
鈍いどころか、欠落しているのではないかと言うほどの、
無関心さだ。
それで手を焼いているロイにしてみれば、たかだか人間の小娘ごときで、
エドワードの気が惹けると思われるのは、甚だ癪に障る。
 
気を取り直し、祭りでの遊びを計画しながら、
二人とも、テクテクと道を歩いて行く。



「わぁ~、人が一杯だねー」

「ほんとだ、いつもこんなに多かったっけ?」
 
村の中央・・・要するに、駅前の広場には、会場狭しと人がごった返している。
普通、毎年の祭りでも、ここまで人手で溢れてるような事はないのだ。

「エド、アル。 よく来たね。 トリシャは、どうしたんだい?」

いつも買い物をする雑貨店の女将さんが、愛想良く声をかけてくる。

「うん、母さんは、今日はお留守番してるんだって」

愛想良く返すのは、弟の役目だ。

「そうかい、二人でここまで来るなんて偉いね。
 ほら、これでも食べて、祭りが始まるのを待ってな」

いつもの買出しのお使いの時のような事を言いながら、
お菓子を差し入れしてくれる。

素直に受け取ると、二人して、きちんとお礼を伝える。

「なぁ、おばちゃん。 今日、やたらと人が多くないか?」

ぶっきらぼうな物言いにも、慣れっこの女将は気にせず、
愛想良く答えてくれる。
こんな時、アルフォンスはいつも不思議に思うのだ。
兄、エドワードは、決して人当たりが良いほうでも、
愛嬌がある方でもない。 
兄より気を配っている分、アルフォンスの方が遥かに愛嬌がある筈なのだが、
おかしな事に、皆、エドワードに話しかけられたり、
声をかけられるだけで、自分の時よりも、数倍に機嫌がよくなるように見える。

「さすがに、エド坊だね。 そうなんだよ、今年はここに1番近い都市の方が
 雨続きだろ? それで、そちらの祭りが取りやめになったらしくてね。
 観光に来ていた人たちが、こっちに流れて来てるらしいんだよ。

 おかげで、久しぶりに商いやってるもんは、大繁盛ってわけさ」

そう、朗らかに笑う女将の店も、その恩恵に授かっているのだろう。

ふ~んと、興味をなくしたように相槌を打つエドワードと、
傍にいるアルフォンスだけに聞かせるように、
少し屈んで、小さな声で囁いてくる。

「けどね、おかげであんまり柄の良くないのも混じって来てるから、
 知らない人には、あんまり近よっちゃー駄目だよ」

その言葉に、アルフォンスも真面目に頷き返すが、
エドワードは、気にもかけないで、自慢そうに言葉を返す。

「大丈夫だって、俺らにはロイがいるもんな。
 悪い奴らなんか、ロイが追っ払ってくれるよ」

なっ?と話を振られて、当然とばかりに、ロイが大きく一声吠える。

「ははは、そうだねぇー。あんたらには、心強いボディーガードが居たっけね」

そう言いながら、ロイの方を見る。
そこで、ロイを簡単に触ろうとしないのは、すでに付き合いから知った知恵だ。
エドワードは勿論、アルフォンスや、母親なら
大人しく撫でられているこの犬が、極端にそれ以外の他人の手を嫌がるのを。

祭りの開催を告げるラッパが鳴り、今年選ばれた小さな姫君達が、
櫓の上から、花やお菓子を、群集に投げ与える。


「わぁー、兄さん、見てみてー!
 ウィンリーだよ。 すっごく、綺麗だよねー」

綺麗に結い上げられた髪に、めかしこんだ洋服を着ているウィンリーは、
いつも作業着しかみていない兄弟からすれば、
驚くような変身ぶりだ。

アルフォンスは、熱心にウィンリーに手を振っていると、
横に立つエドワードが、必死な声で、彼女を呼ぶ。

「ウィンリー、俺だよ俺ー!
 こっちだ、気づけよー!」

エドワードの必死なアピールに、アルフォンスが、まさかと言う思いで、
驚きと共にエドワードを振り向く。
・・・落ちのわかっているロイは、素知らぬ顔だが。

「ウィンリー、菓子ー、菓子を投げてくれー!」

その言葉に、アルフォンスは肩を落とし、
ウィンリーは、不機嫌そうにそっぽを向いたまま、
絶対に、エドワード達の方には、キャンディー1包みも投げかけてくれなかった。

その櫓から、小さな姫君達が隠れると、後は思い思いに、
祭りを楽しむ為に散会する。

「ちぇー、なんだよアイツ。
 ちょっと、冷たすぎんじゃないか?」

結局、何も取れなかったエドワードは、不満たらたらだ。

「兄さん・・・」

あまりの憐れさに、アルフォンスは、同情の溢れた瞳で
エドワードを見つめ返す。

そこに、櫓から降りてきた姫君達が、通り過ぎていく。
もちろん、ウィンリーの姿も見える。

「兄さん、お菓子欲しい?」

突然の弟の問いかけに、キョトンとしながらも、
素直に頷く。

「じゃあ、今から僕が言った言葉だけ、
 ウィンリーが来たときに言うんだよ」

「お前の言った言葉?」

「そう。 兄さんがどう思ったかとか、余計な感想は
 付けなくていいからね。
 僕が、言う言葉だけ言うんだよ」

妙な気迫を見せて語る弟の様子に、やや怯みながらも、
頷き返す。

「ウィンリーの衣装って、すごく綺麗だよね?」

「衣装? どうだったっけ?」

「いいから! 兄さんの感想は置いといて。
 凄く、綺麗だったんだよ。
 だから兄さんは、『綺麗だな』って伝えるだけでいいんだ」

凄みながら迫られて言われると、無言で頷くしか出来なくなる。

「いいね。『綺麗だな』だけ!だよ」

コクコクと頷くエドワードの様子に、アルフォンスはホッとしながら、
通り過ぎようとしていたウィンリーを呼び止める。

「ウィンリー! お疲れ様~!」

愛想良く声をかけ、手招きをされれば、
無視して通り過ぎにくい。
やや不機嫌な面持ちでも、ウィンリーが近寄ってくる。
それでも、アルフォンスの方に話しかけはするが、
エドワードのほうは、見ようともしない。

アルフォンスにはああ言われたが、言い出すタイミングもなく、
エドワードは、どうしようかと戸惑っていると、
アルフォンスが横から、さり気なく肘をつついてくる。

「今日のウィンリー、凄く綺麗だね、見違えちゃったよ。
 ねぇ、兄さん?」

一段と強く突かれて、慌てて教えられた言葉を言う。

「綺麗だな」
 
棒読みのようなセリフにも、言われた本人は、
サッーと頬を紅潮させる。
そして、おずおずと手元のバスケットから、
残しておいたお菓子を取り出して、

「これ上げる。 二人の為に、残してたやつだから」

そう告げると、恥ずかしそうに、仲間の姫君達が待つ控え室に
走っていく。

アルフォンスは、大仕事が終わった気分で、ホッと息を付く。
そして、エドワードは、お菓子を手に上機嫌だ。

「あいつ、いいとこあんじゃん。
 上から巻きゃー、確かに取る分減るもんな」

そう意気揚々と語るエドワードに、アルフォンスも力なく、
そうだよねと、小さく返す。

その後は、上機嫌で遊びまわり、そろそろ戻る時間が近づいてくる。

広場では、大人たちは酒が回り始めてきたのか、
さっきよりも煩雑な雰囲気が漂い、うろつく人の足も、危なげだ。
一斉に練り歩くような集団がやってきて、エドワードとアルフォンスも巻きこんで、
辺りは騒然とした賑やかさになる。

人の並を掻い潜り、漸く外れのほうまで出てくると、

「アル? アルフォンス? おーい、どこに居るんだよ?」

キョロキョロ周囲を見回すが、それらしい人影は見えない。
近くの知り合いを捕まえて聞いてみるが、酔った人間に、
質問は無意味だ。

しばらく会場を探し回るが、見つからないとわかると、
切り替えの早いエドワードは、先に帰ってようぜとロイに声をかけて、
とっとと帰り道を歩き出す。
当然このとき、ロイはアルフォンスがどこにいるのかは、
するどい嗅覚でわかっていた。
アルフォンスだけなら、すぐさま教えただろうが、その横に、
邪魔な娘の匂いも嗅いで、素知らぬ顔をする事に決めたのだ。

『あんな事を告げた後だ。 馬鹿な娘が、妙な期待を持ってるとも
 限らないからな』

先に歩き出したエドワードに、じゃれ付くようにしながら、
二人での帰り道を楽しむ事にする。

電灯もないような道だが、通いなれ、星明りのあるこの村では、
別段、闇夜だからと不自由する事もない。
小さな森を抜ければ、そこからは、なだらかな丘が続き、
家が見えてくるはずだ。

手を繋げない代わり、ロイが時たまエドワードの手を嘗めて、
エドワードがロイの頭を撫で返す。
そんな風に、ご機嫌に歩いていると。
ロイが、歩くのをピタリと止める。
そして、威嚇するように、森の木陰に向かって唸り声を上げる。

『一人、二人、三人か』

酒気を帯びた嫌な体臭が漂ってくる。

「どうしたんだよ、ロイ?」

動かずに、前で踏ん張るロイに、エドワードが不思議そうに声をかける。

ロイは、とにかくエドワードを森から出そうと、身体の向きを返ると、
頭と身体を使って、エドワードをもと来た方向に、グイグイと押しやる。

「どうしたんだよ? こっちじゃないだろ?
 こら、やめろよ」

身体の大きくなったロイに、本気で押されると、小柄なエドワードの力では
押しやられてしまうのだ。


「なんだよぉ~、子供じゃねえか」

「ちぇっ、せっかく潜んで立ってのに、
 時間の無駄だったな」

急に現れた男達に、エドワードは驚いたように目を瞠るが、
特に警戒心を抱いたりもしない。
この村では、そんな必要性が全くないせいでもある。

「おじさんたち、祭りに来た人?」

着いた時に、女将が言っていた、観光客なのだろうか。

「おうそうなんだ。 行った先の祭りが取りやめになったってから、
 ただ帰るのもつまらんから、この村で祭りがあるって言うから
 来てみたんだよ」

「でも、やっぱぁー、こんなチンケな村じゃ、対した楽しみもねえな」

ロイは、話しながら近づいてくる男達に、姿勢を低くして威嚇する。

「おお怖ええー、坊やの犬か?」

「ああ、ロイってんだ。 ロイ、静かにしろ」

主に言われれば、押し黙るしかない。
ロイは、警戒心は解かないまま、唸り声だけ止める。

「お前、綺麗な髪してるなー」

「見ろよ、目も同じ色だぜ」

「肌なんか、真っ白だ」

無遠慮に、エドワードをジロジロと品定めする相手に、
不愉快な空気に、エドワードは、さっさとこの場を離れる事にする。

「ロイ、行くぞ」

男達を押しのけ、家への道を歩き出そうと背を見せた途端、
目配せを交わした3人が、背後から、エドワードの口を塞いで
抱き上げる。

「んんんー!」

ジタバタと手足をばたつかせるエドワードを、一人が抱えるようにして、
木陰に引きずり込む。

『エドワード!!』

ロイはすぐさま、エドワードを押さえ込んでいる一人に、
鋭い牙で噛み付く。

「ギャッー、お前ら、この犬何とかしろよー!」

ロイを引き剥がそうと、力任せに二人が引っ張るが、
食い込んだ歯を離そうとしないロイに、
一人が、携帯していた刃物を突き刺す。

「ギャン」

大きな悲鳴を上げたロイに、エドワードが驚くように名前を叫ぶ。

「ロイ、ロイー!!」

啼いた隙に、緩んだ顎から逃げ出すと、
3人がかりで、ロイを嬲りだす。

「やめろよ、やめろー!」

必死に縋りつくエドワードに、

「お前は後だよ。 黙ってすっこんでろ!」

勢いよく突き飛ばされたエドワードが、木の幹に激突し、
ぐったりと倒れこむ。

『エドワード!!』

それを視界に収めたロイが、大きく一声啼くと、
辺りに眩い紅の光が走る。

光の中心から、ゆらりと人影が浮かび上がり、
恐ろしい形相をした、一人の男が立ち上がる。

「な、なんだ、一体どうなってんだ?」

目の前の現象が、俄かには信じられず、
茫然としている男達に、視線だけでも十分射殺せそうな眼力で、
ゆっくりと見回す。

「お前ら・・・、殺すだけでは許せない罪を犯したな」

舞を舞うようなしなやかな動きから繰り出される拳や蹴りは、
男達に綺麗にヒットしながら、次々と地にひれ伏させていく。
それでも、飽き足らないと場かりに、
倒れ付した男達を蹴り上げ、転がす。

「ホークアイ!ハボック!ブレダ!ファルマン!フュリー!」

中空に、声を上げて吠えると、
すぐさま、ゆらりと影が生み出される。

「およびでしょうか?」

すっと、膝まづいて声がかけられる。

「エドワードに狼藉を働いた輩がいる。
 さっさと連れて行け」

「「「はっ」」」

ゴミ袋のように引きずられた男達が、一人、また一人と
彼らと一緒に、闇に消えていく。

「死よりも、酷い目に合わせろ。
 簡単に死なせるような、甘いことはするな」

冴え冴えとした、冷ややかで、恐ろしい言葉にも、
ホークアイは、当然と言うように頷いて、1番最後に姿を消す。

ゴミの始末が終わり、急いでエドワードの元に駆け寄ろうとして、
ロイは、ギクリと足を竦ます。

木の陰で気絶しているとばかり思っていたエドワードが、
闇でも美しく光る金の瞳を、じっとロイの方に向けていたのだ。

「・・・エ、エドワード・・・、気づいていたのか」

いつかは、打ち明けなくてはいけない事だった。
だが、こんな最悪な展開ではなく、エドワードがもう少し大人になり、
ロイ自身を受け止めれるだけど、心を持ってからと思っていた。
異形の身なのだ、自分達は・・・。

エドワードの反応を、恐る恐る窺う。
人たちは皆、伴侶以外の者達は、ロイたちの事を
恐れ、蔑み、拒否する。
もし、もしも、エドワードに、そんな瞳で見られたら・・・。

ロイは、震えてくる身体を叱咤しながら、ゆっくりとエドワードの傍へと
近づいていく。

「エドワード、怪我はないか?」

膝まづき、覗きこむように屈む。
何も言ってこない間が、酷く辛く感じる。

「あんた、ロイ?」

驚きに瞠られた瞳が、見れずに、ロイは視線を落としながら、

「そうだ」と小さく返答する。

断罪される罪人のように、ロイは静かにエドワードの次の言葉を待つ。

「嘘だろ・・・、だって、ロイは黒犬で・・・」

「あれも、私の姿の1つだ。 そして、この姿も私だ」

力なく答えられた言葉を聞いて・・・。

「ええっー! それって、変身術?
 ロイ、錬金術が使えるんだー!!」

興奮したように上がる反応の声に、ロイは気が抜けたように
エドワードを見る。

「ええー! どうして、そんな凄い術が使えんなら、
 俺に教えてくれなかったんだよー」

「エ、エド?」

「俺も師匠に教えてもらってるけど、そんな凄い術は
 まだ、教えてもらってないんだぜ」

瞳をキラキラと輝かせ、頬を紅潮させて、
ロイを見つめてくる瞳には、憧憬や憧れ、羨望が瞬いている。

「いや、人が言う錬金術ではなくて、私たちの種族は
 皆そうなんだ」

予想を上回る反応を返すエドワードに、戸惑いながら言葉を返す。

「えっー? それって、ロイの仲間なら、皆出来るって事?」

「そ、そうだ」

「さっき、人が空中で消えたみたいな事も?」

「ああ、飛距離には差があるが、大抵の者なら・・・」

「俺も、俺も出来るようになる?」

期待に満ちた声に、どう返したら良いのかわからず、

「さぁ? 多分、勉強すれば、それなりには出来るようになるかも知れないが・・・」

と、言葉を濁す。

どうやら、少しばかり、思っていたのとは違うが、
ロイの事は、受け止めてくれたようだ。

その後の帰り道、質問攻めに合いながら、
家まで歩いて返る。
不満そうにしているエドワードは、どうやら、飛んで帰るのを
実践して欲しかったのだろう。

家に辿り着くまでに、これだけは念を押しておかねばと、
犬の姿のまま、真剣に語りかける。
(別にロイは、犬の姿でも、普通に人と言葉も話せるのだ)

「エドワード、頼むから、絶対に他のものには言わないでくれよ」

「ええ? アルにも?」

不満そうな表情から、口止めしてなければ、話していた事は間違いない。

「勿論だ。 アルフォンスにも、母君にも、
 誰にも話してはいけない。
 話せば、私と君を引き裂こうとする人間が現れてくる事になるんだ」

「・・・ロイと離される事に?」

「そうだ、我々は、人とは違う種族で、人に知られずにしなければ
 この世界では生きていけない。
 だから誓ってくれ、誰にも、決してアルフォンスにも言わないと」

ロイの言葉を真剣に聞いていたエドワードが、
強く頷く。

「うん、俺もロイと引き離されるなんて、絶対に嫌だ。
 だから、アルにも母さんにも、誰にも言わない」

その言葉に、安堵以上に、嬉しさがこみ上げてくる。

「これから時間をかけて、私たちの事を色々話していこう」

その言葉に、嬉しそうに肯定を告げる。



~可愛いペット~ P、10「親父!?」

微風か吹く丘で、のんびりと寝そべり、
好きな相手と、のんびりと会話を楽しみながら、
今まで知らなかった、相手の1つ1つの事柄を知っていく。
そんな至福の時を得れれば、誰しも穏やかな満ち足りた気持ちに
なるのではないだろうか?
・・・そう、好きな相手の、二人っきりなら・・・。

「へぇ~、じゃあ、ロイ達の仲間って、あんまに居ないんだ?」
「そうなんっすよ。 なんせ、伴侶に出会えるチャンスに
 恵まれるまで時間がかかる事も多いしですねー、
 人みたいに、こっちが駄目なら、あっちってわけに
 いかないっしょ、俺らの場合?
 だから、血族も減って、減って」

うつ伏せに転がっているエドワードの頭の傍で、
犬型のハボックが、答えている。
ふ~んと、余り意味はわから無そうに相槌を打ちながら、
ハボックの毛並みを撫でてやっている。

「いや、そう悲観するものでもないぜ。
 少なくとも俺様は、世界1の美姫と出会えて、
 天空1の可愛い娘を得れてんだからな」

エドワードの足元からは、どしりと腰を落ち着けた犬型のヒューズが
会話に参加してくる。
ヒューズの話に興味が惹かれた事柄があったのか、
問いかけに乗り出していく。

「それって、子供は人なんか?
 それとも、ロイと同じ種族になるわけ?」

「う~ん、難しい質問だな・・・。
 まぁ、遺伝子の関係で、母親の血が強く出るんで、
 うちの子は、殆ど人の種族になるな。
 まぁ、もしかしたら、多少は俺の遺伝子のおかげで、
 病に強かったり、長命になったりはあるかも知れないがな~」

首を傾げて考え込んでいるヒューズに、エドワードもフンフンと頷いて聞いている。

「まぁ、混血児の場合は、殆どが母親の種族に寄りますね。
 多分、我々の種族の遺伝子が、薄弱なのかも知れません」

今度は、ヒューズの横から、ファルマンが入り込んでくる。

「かも知れないって・・・誰も、調べたり研究したりしないのか?」

何か気になる事柄が出ると、徹底的に調べないと気が済まないエドワードに
してみれば、そんな重大かつ面白そうな事を、
何故、長命を誇るロイたちが気にしないのかが不思議でしょうがない。

「僕達、あんまりそんな事は気にならないんです」

パタパタと垂れた耳をはためかせながら、答えたのは
フュリーだ。

「気にならないって・・・なんで?」

「さぁ? そういう体質なんじゃないか?」

少し幅を取るブレダは、輪から弾かれて、皆の後ろに
追いやられながらも、短い首を頑張って伸ばして
会話に参加しようとしている。

「体質・・・」

何か釈然としないが、まぁ自分も、気にならないことは
とことん気づかないから、そんなものなのかも知れない。
と、そんな風に考えるエドワードも、やはり変わり者なのだろう。

「私たちにとって、1番の基準は伴侶と過ごす事ですから、
 それ以外の事は、さして重要な事ではないのです」

ロイの次にお気に入りの、美しい犬が、エドワードの左側を
陣取って、優雅に答えてくる。

「そうなんだ」

このいかにも賢そうな犬、ホークアイが話すと、
妙に説得力を持って、聞こえてくる。

変わり番こに、エドワードに声を掛け、話しかけてもらっている犬達は、
当然、普通の犬ではない。
皆、ロイと同じ種族の者達で、エドワードのシンパでもある。
皆が出来るだけ、エドワードの傍に近寄り、
出来れば撫でて貰ったり、ついでに欲を出せば、
抱きしめて貰えたりすると、もう、この世の春~な気持ちに
舞い上がれ、幸せで仕方ない。

ゴホン ゴホン
エドワードの右側から、会話に参加していなかったロイが
咳払いをする。

「どうしたんだ、ロイ? 風邪でも引いたのか?」

「いっ、いや、別に・・・」

心配顔のエドワードの様子に、慌てて首を振る。
そして、エドワードの目に入らないように、
周囲のモノに、キラリと牙を剥きだす。

何も好きで、このメンバーに来るのを許可したわけではない。
来たがる面々に、渋って返事をしないままでいた所、
ヒューズが、「俺らが、あの豆っ子に、伴侶の素晴らしさを教えてやるぜ!」と
意気込まれて言われて、それならと仕方なく許可をしただけなのだ。
なのに来てみれば、ロイのこと等そっちのけで、
我先にと、エドワードに群がっている。
これでは、不機嫌にならずにはおれないだろうに。

そんなロイの剣呑な様子に、ばつが悪くなった面々は、
思い出したように、慌てて会話を切り替える。

「そッそう言えば、エドは、どんなタイプが好きなんだ?」

まずは、相手の情報収集からと、ヒューズが話を切り出す。

「好きなタイプ・・・?」

「た、例えば、胸がボーンの腰がキュの尻がバーンとか
 色々、あるじゃないっすか・・・、いでぇー!!」

キャインと飛び上がったハボックに、エドワードがビックリをする。

「それは、お前のタイプだろうが!!」

皆に噛みつかれ、後ろ足で蹴られ、前足で殴られ、
ついでに、尻尾からは煙が燻っている。

キューン・キューンと尻尾を丸めて鳴きながら、
輪の外で蹲り痛みに耐える。

「失礼しました、彼の言う事は聞き流して下さい。
 少々、変わっている奴なんで」

ハボックの有様に、心配そうに目をやるエドワードに、
気にするなと、皆が首を振って示す。

「そ、そう・・・?」

「で、エドはどんなタイプが好きなんだ?」

ハボックの陣取っていた場所に、すかさず入り込んだブレダが
厳つい顔に、愛虚有る表情を浮かべて聞き返してくる。

「俺のタイプ・・・?」

少し考え込む仕草を見せるエドワードの様子に、
皆は固唾を飲み、ロイの耳は、素知らぬ振りをしながらも、
ピンと立てられて、聞き耳をそばだてている。

「う~ん、母さん?」

その答えに、ガクリと周囲が崩れる。
ロイは、深いため息を吐きながら、自分の前足に
顔を置く。

「そ、そうですか・・・、確かにエドワードのお母さんって、
 優しそうで、綺麗な方ですもんね」

「うん! リゼンブールでも1番だって、
 皆、言ってるぜ!」

嬉しそうに、明るい表情で返す様子に、
『かなり、お子様かも・・・』と、
皆の心中に過ぎる。

「で、でも、母君には、お父上がいらっしゃいますよね?
 エドワード君も、そんな伴侶が居たらいいと思いませんか?」

ファルマンのナイスな言葉に、皆がGood!のサインを
送る・・・が、所詮、犬型の時の手では、肉球を見せるだけだが。

「えっー!!
 俺、アイツみたいな相手なんか、欲しくない!」

予想外の強い反発に、ふと皆が思いつく。
・・・そう言えば、彼の家で、父親の姿をみた事が
 あっただろうか?・・・

「そういえば、エドワード。
 君のお父上は、どちらに?
 ・・・もしかしたら、お亡くなりにでも?」

今の今まで、そんな事さえ気にした事がなかったロイが、
そういえばと聞いてみる。

「多分、どっかで生きてると思うぜ?
 たま~に、手紙とか寄越してるから」

そんな風に、全く気負い無く答えるエドワードに、
皆の疑問が膨らんでいく。

「どっかにって、出稼ぎでもいってるのか?」

「ううん、母さんが言うには、ほうろう癖が有るんだってさ。
 だから、俺もあんまに覚えてない」

「そっそっか・・・」

「だから、俺は別に伴侶とか居なくてもいい!
 それより、母さんやアルと、それにロイに居てもらった方がいいもん」

なぁーと声をかけながら、ロイを撫でるエドワードに、
それはそれで、嬉しいが・・・と、複雑な喜びを持つ。

「いや、それは駄目だ!!」

いきなり大声で叫ばれた声に、エドワードが、そして、
周囲のモノたちも、驚く。

「エド、よぉ~く聞け!
 伴侶を持つって事は、素晴らしい事なんだぞ。
 嬉しい事は、二人で増やして行け、哀しみは互いに持ち合って、
 半分に出来る。
 家に戻れば、常に温かく迎えてくれ、可愛い娘は、
 パパが1番、大好き~とか言いながら、
 ほっぺにチューなんてしてくれて、
 上手い食事に、頬も緩みっぱなしで、
 もう!もう!最高ーに、癒される家庭が築けるってもんだ。

 だから、お前も、素晴らしい伴侶を持て!
 確かにお前の親父さんは、俺にはちょっと考えられんが・・・。
 俺なら、素晴らしい妻と、可愛い子供を置いて、
 放浪するなんて、耐えれない~!死んじまう!
 泣き疲れて果ててしまうー!!」

 その立場に陥った自分を想像でもしたのか、
 おいおいと泣き出すヒューズの、余りの勢いに
 さすがのエドワードも、飲まれて茫然としている。

「まぁ、ヒューズさんの所は、ちょっと規定外かも知れませんが、
 エドワードさんも、そんな幸せを欲しいとか思いませんか?」

その言葉に、自らも思っているのだろう、
しきりに頷いている周囲の犬達だ。

「う・・・うん・・・。
 そんなのだったら、ちょっと位は、いいかも知れないよな」

ここで、要らないとは言えないのは、
言ったが最後、またヒューズの怒涛のような
話が繰り出されると懸念しているせいだろう。

エドワードの、そんな言葉に気を良くしたヒューズが、
直球勝負を賭けてくる。

「そうだろう、そうだろう。
 伴侶の素晴らしさをわかってくれたか。
 じゃあ聞くが、エドはロイの事は好きか?」

ヒューズの問いに、皆が緊張を走らせる。

「うん、勿論! 大好きだぜ!」

胸を張って答えるエドワードに、ロイは感激の余り、
胸が震えるのを感じる。

「そうか、そうか!
 このロイはな、俺たちの種族の中ではピカ1の能力者だ。
 金も唸るほど持ってるわ、美形だわ、身体も頑健、
 神経も図太い。 まぁ、要するにお勧め・お買い得NO1の
 掘り出しものってわけだ」

「うん?」

「そんなわけで、どうだエド。
 ロイの伴侶になってみないか?」

その問いが繰り出されると、さすがに周囲もシーンと静まりかえる。
そして勿論、ロイにとっては、人生最大の緊張する場面だ。
皆が固唾を飲んで、エドワードに注目をしている間、
エドワードが、一生懸命に頭を悩ませている。

無音の時がしばし流れ、緊張も極限に向かっていく。
そして、おもむろに顔を上げたエドワードが・・・。

「ええーっ、そんなのおかしいだろっぉ」と

不満の声を上げる。

「ど、どうして?」

思わず声が上ずりながら、ヒューズが聞き返す。
ロイは、硬直したまま言葉も発せない状態だからだ。

「だって、おかしいだろ?
 伴侶って、同性同士の事じゃないじゃんか。
 同性同士なら、ヒューズんとこみたいに
 子供生まれない事くらい、俺だってわかるぜ」

尤もな答えに、うっと詰まって、ヒューズが退陣に追い込まれる。

「い、いえ、エドワードさん。
 僕たちの伴侶と言うのは、子孫の為じゃなくて、
 互いの為にあるので、別にそれはそれで良いんですよ」

慌てて交代したフュリーが、急いで付け加える。

「でも、そんなんだから、血族減るんじゃないのか?
 じゃあ、増やす努力した方がいいじゃんか」

至極、もっともな返しに、フュリーも言葉が出なくなる。

「いえ、努力するとかしないとかではなく、
 伴侶は運命みたいなものですから、変えれるものではないんですよ」

「じゃあ、俺とロイが、そうだって言うのか?」

「はい!そうです。 そういう巡り合わせなのです」

漸く実を結びそうな会話になり、勢い込んで肯定をする。

その言葉に、先ほどより更に考え込む姿を見せるエドワードに、
片時も目が離せなくなった周囲の者達は、
はらはらしながら、エドワードの返答を待つ。

うーん、うーんと頭を捻り考えるエドワードの様子に、
見ている者達の方が、体中に力が入ってしまう。

そして、ふーっとエドワードが息を吐き出すと、
ゴクリと皆が息を飲む。

「でも、やっぱやだ。
 結婚したって、他人は他人だろ。
 親父なんか、俺全然知らない奴だし、
 関係ないじゃん。
 でも、アルみたいに兄弟だったら、ずっと兄弟のままで
 一緒に居れるじゃんか。
 その方がずっーと良い!
 だからロイは、俺の弟にする!」

エドワードの宣言に、万策尽きた者達が、バタバタと倒れ臥していく。
エドワードの父親へのトラウマは、かなり根深いようだ・・・。

『許すまじ、クソ親父!!』

ロイの心の中で、抹消したい奴の最上位に輝いたのは、
言うまでも無い。

この日は、皆力尽きて、すごすごと引き下がる事になる。
ロイのエドワード捕獲作戦は、かなり難航しそうな気配を濃くしていく。


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